セレウス菌感染症
三重県の整形外科の病院で、セレウス菌感染症で死者が出る事件がありました。点滴を準備する場所や、作った後の衛生管理に原因がありそうだと報道されていましたが、真相は不明です。
通常、点滴の液はほぼ無菌状態ですが、準備後は操作中にどこかからか雑菌が混入する可能性はありますので、もう無菌とは言えません。時間が経てば菌は増えていきますから、点滴は作り置きしてはいけませんし、液やチューブ類も少量を頻繁に買い替えしないと危険です。
セレウス菌は、病人の体を拭く‘清拭’のタオルにつく菌として有名です。タオルは煮沸消毒するのですが、セレウス菌は煮沸しても芽胞(カプセルのようなもの)を作って生き残る能力を持っています。したがって、煮沸消毒用の器具自体を洗浄、消毒して菌の繁殖を防がないといけません。 関東の大病院で、シーツ類を介した感染が問題になったこともあります。この場合は、洗濯業者の機械が汚染されていたようです。
まさか消毒液や消毒用器具の中に菌がいるとは普通の人は考えつきませんので、汚染されていることに気づかないまま触り、その手で点滴の操作をすると、今回のような結果になりかねません。
菌の毒性は他の菌と比べて特に強いとは言えませんが、口に入れば食中毒の原因になりますし、直接血管の中に入れれば、やはり死につながります。
この菌は病院の中以外にもいます。おそらく皆さんの腸の中にもいると思います。便の培養検査をすると、かなりの確率で検出されます。常在菌(普通の状態で存在する菌)なのです。
感染予防のためには、たとえ消毒済みと感覚的に思える場所や容器、洗濯機、消毒器具であっても、定期的に洗浄し、芽胞の形で生き残る雑菌を物理的に排除し、菌の数が増えるのを防ぐことが必要です。どんなに消毒しても無菌にはできませんが、菌の数さえ少なければ感染症は発症しないで済みます。
診療所便りより 平成20年7月